経営が傾いてきた企業がよく言いがちなキーワード。それが「本業回帰」です。個人的に、大変危険な言葉だと思ってます。その会社の本業が、将来性にあふれているなら問題ないでしょう。業界全体が伸びているならいいです。でも、そうではないなら、本業を思い切って捨てる勇気が必要でしょう。
ぱっと思い浮かぶのは、かつて日本を席巻した総合スーパー、ダイエーの歴史です。
カリスマ経営者、中内功さんの下、1960~1980年代に急成長。1972年には、小売店の売上高日本一の座を、大手百貨店の三越から奪取に成功しました。が、1990年代に経営が悪化し、2004年に産業再生機構に経営支援を要請。2013年には同業のイオンの連結子会社になりました。
総合スーパーの経営が傾いた理由はいくつもありますが、よく言われるのはコンビニエンスストアの誕生と発展です。セブン―イレブン・ジャパンのHPによると、創業は1973年(昭和48年)。店舗数は、
- 昭和49年度 15
- 昭和55年度 1040
- 平成元年度 3954
- 平成10年度 7732
- 平成20年度 12298
- 平成27年度 18572
と右肩上がりに伸びていますね。売上高ももちろん伸び続けてます。この間、ダイエーにもチャンスがあったんですよ。セブン―イレブンのライバル企業であるローソン、いまは三菱商事の子会社ですが、かつての親会社はダイエーです。ダイエーは業績が悪化すると、経営資源を「本業」である総合スーパー部門に集めるため、事業を切り売りしていきます。その中に、ローソンも含まれていたわけです(ちなみに「神戸らんぷ亭」も売りました。個人的に、けっこう好きでした)。いまから振り返れば、むしろローソンを残して総合スーパー部門を売るなり規模縮小するなりしていれば、違った展開になっていたでしょうが、本業へのこだわりで、先行きを冷静に見通すことができなかったんでしょう。
逆に、うまく本業に見切りを付けた企業の代表格は富士フイルムです。
社名から分かるように、この会社の本業は写真用のフィルム製造だったわけです。しかし、デジカメの登場で急速にフィルムの売り上げは落ちていきます。街のあちこちにあった写真の現像屋さんも姿を消していきました。そんな中、富士フイルムは持っていた写真技術を生かし、医療機器の製造・販売に乗り出し、見事に生き残りに成功しています。
医療機器部門は、これから経済発展してくる新興国に売り込めますから、成長が期待できますね。ちなみに、その有望な医療機器部門を売り払ってしまったのが、いま最も経営の先行きが危ぶまれている大企業、東芝さんです。機会があったら、東芝の今後について、私なりの考えを書いてみたいと思います。